人の性的欲望を単純に片付けすぎでは。

女性型ロボットへの性的欲望の未来 - G★RDIAS
またこちらのブログで書かれたkanjinaiさんのエントリに反応するのですが・・・。と言っても、単に偶然に引っかかったエントリがこちら様だったというだけなんですけれども。

よく知りませんが、いろんな国で「女性型ロボット」というものが開発されてるらしくて、どうも最近「女性型ロボット」の「進化」が見られるらしいのです。そのことに対してkanjinaiさんが未来への予測(?)のようなことを、「ジェンダーの視点」で考察をしておられるのですが・・・。

しかしどうして女性型ロボットが進化するのか。そのほうが売れると見ているのか。開発者の性的欲望がそうさせるのか。ジェンダーの視点から見たらどうなるのか。

ということですが、ちょっと引っかかった点を何点か言及させてもらいます。

研究者の男が女性型ロボットの胸を触るシーンが収められている。開発者の性的欲望があらわになったシーンであろう。

唐突な推察だなぁ・・・。
いやまあ、男性に限らず、人がそういう欲望を(女性という記号を背負った)ロボットに向ける事は十分ありうるとは思います。でも、胸を触るシーンがあったからって「それが開発者のロボットに対する性的欲望の表れなのだ」と言い切られましても・・・*1。面白半分、冗談くらいで胸触ることもあるんじゃないでしょうかー。よく子どもとかがやりそうですよね。まあ、どうでもいいけれど。

で、kanjinaiさんは「みなさんのご意見もぜひ聞いてみたい。」と言って、以下の質問を投げかけています。

・なぜ女性型ロボットが熱心に作られるのか、それも美人系の?(ロボット大集合サイトでも、上記ココロ社のものがアクセスNo.1とのこと)

・究極はセックスできる女性型ロボットが目指されているのか?

・自立歩行でき人工知能が積まれてセックスできるようになったら、子どもがほしくない男たちは、生身の女性は要らなくなるのではないか? 歳を取ることもないし、好きなようにカスタマイズできる。あるいは子育てが終わった男は離婚して、美人のロボットを伴侶とするようになるのではないか。

という風に、3点に分けられてあるのですが、私も思った事を書かせてもらいます。
1点目。でも、人型を作るなら誰でもそれなりの見栄えのある人形を作るものでしょうね。もしかしたら、設計上の問題もあったのかも?
2点目はどうか。セクサロイドなんてマンガにはよくありますよね。技術的に可能なものであれば、マンガに出てくるものは大抵実現されそうな気がします。そんな世の中ですよねw
3点目。そういうものを嗜好する男性がいたとしても不思議はない。でも、それは「子どもがほしくない男性」「子育てが終わった男性」に特化した話なのか。そしてそのように纏めてしまってよいのか。
そういうものが出回るような市場で、どのような消費の形が形成されるかは未知数。
そして、子どもが欲しくない男性だとか、子育てが終わった男性で括るのは、「そういった男性たちには、こういうロボットを嗜好する傾向があるはずだろう」と無根拠に決め付けることであり、少々不愉快。「女性型ロボット」に限らず、人にあてがわれていた役割をロボットが背負うのなら、人の生活形態も様変わりする可能性は確かに、ある。たとえば、大昔(<?)にはなかったような、高精度の義足が現在では開発されているのでしょう。が、そういう技術がもたらす人への影響はどのようなものだったのか。高精度の義足は身体障害者にどの程度の、どのような、影響を与えただろうか。ジェンダーの視点だけでない考察をして欲しいものです。

私は開発者の(隠された)性欲がこれらの動きを作り出していると思うし、このままいけば上記のようになっていくのは避けがたいと思う。

えっ。そうなんですか?!なんの根拠でそう仰られてるのかお聞きしたい・・・。そう簡単に割り切ってしまってもよいのでしょうか・・・。しかも「避けがたい」って、その考察は何処?
この意見で不可解なのは、「男性」と大きく括った上で「本来『男』とはこういうものを欲求する生き物なのだ」といった断定をしているところ。男性って言ったって、男性にしか性的欲望を持たない男性がそれほど女性型ロボットへのニーズを求めるかどうか疑問だし、女性にしか性的欲望を持たない男性にしたって、それほど単純にロボットのほうへ(ほうにだけ)傾くと断定するのは、ちょっと信じがたい話だ。

*2
ともあれ、このように男性の性的欲望を簡単に片付けて、「男とは皆そういうものなのだ」と言いたげに書かれるのは男性に対して失礼では。だって、「好きなようにカスタマイズできる女がいれば、男はソッチに流れていくものだろう」みたいな意味合いで仰ってるように読めるけれど、それって揶揄だ。
私はそれほど男性の女性に対するニーズ(欲望?)は一様ではないだろうと思う。kanjinaiさんが言うように「女」を消費物としてしか見ない男性がいたとしても、それが男性の本質と言うわけではないのだから、そんな簡単に「男性」の欲望を片付けた上で男性全体を語られましても「なんだかなぁ」です。
で。kanjinaiさんは多分、この話において異性愛男性を想定してお書きになられているのだろうと私は推測するのですが、果たして異性愛男性ってそういうものなんですか?異性愛男性がマジョリティであるこの社会において人間にそっくりの「女性型ロボット」が開発されたらそれを嗜好するようになると判断するには、それなりの判断材料が必要なはず。その判断材料もなしに「男性」と大きく括って「嗜好するようになるだろう」と言うのでは、まるで男性は本質的にミソジナスであり、自分にとって都合のいい女性を嗜好する身勝手な生き物だ、と断定するようなものでは。

もし仮に多くの男がロボットを伴侶に選ぶようになったら、女性たちはどうすればいいのか。

そんなの、男性の伴侶を欲してない女性としては、どうもしないと思いますが・・・。
そりゃあ、男性を(いろんな意味で)必要とする女性はいるでしょうけれども、唐突に「女性達はどうすればいいのか」と言われましても。多くの男がセクサロイドに行ったからって、直ちにそれが(女性にとって)問題化するという道理は別にないはず。
女性にだって色んなニーズがあり、男性に対するニーズ(欲望?)は一様ではないのですから、「セクサロイドに男を取られたら女達は皆困るだろう」みたいに言うのもおかしいと思います。微妙に失礼だし。


男性(の性的欲望)に対しても杜撰な解釈をなさっていましたが、女性に対してもそれは同じようです。
で、しかもまたこのネタなんですが。

ちょびっつのように、女性もまた男性型ロボットを伴侶に選ぶようになるだろうか。腐女子たちが社会のマジョリティになってきたらそうなるかもしれない。現在でも、美男子フィギアを集めている女性はけっこういる。

はいはい。なんで腐女子がマジョリティになったら「そうなるかもしれない」と思ったのか教えていただきたい。意味不明だ。
・・・なぜかここではセクサロイドを欲しがる男性と腐女子を同列に置いてらっしゃいますが、なんだか、腐女子に対して「お前らもそういう欲求があるんだろう?」と揶揄なさってるみたいで、読んでて気持ち悪いです。

こうやって簡単にフェティッシュな欲望をオタクにばかり押し付けようとする言説は、本当によくありますよね。しかも今回は(も)腐女子です。(女性且つオタク的、というマイノリティである)腐女子だと何でもかんでも好き勝手にイメージを押し付けやすいのでしょうか。ですけれど、そういう風に腐女子ばかりに女性の性的欲望*3の代表を押し付けるのは、あんまりではないでしょうか?
私見ですが、腐女子は女性の性的欲望の代表者として標榜されることが多いように思います*4

性の現象を特定の集団ばかりに負わせようとする言説は、いとも簡単に「女性」の性的欲望を単純化・忘却させて、多様で複雑な欲望を(女性の)周縁へと片付けてしまう。
私は杜撰な腐女子論などには、「女性」の“欲望”をきっちりと見定めるような視座はないと感じているのですが、今回のkanjinaiさんのエントリでも、同じことが言えると思います。


時にセクマイは、過剰に性的欲望の面ばかりをクローズアップされて来たと思うのですが、そんな捉え方をされることで彼/彼女らは、非常に雑な人間性しかイメージされず、結果、他者から杜撰な理解をされてしまったという歴史があると思います。そして、腐女子に対しても似た背景があるように感じられます。人の持つ「性」の変態性を、セクマイにばかり押し付ける言説の形と、こういった腐女子への言説は、特定の集団をスティグマ化させる点などで似ているように思います。

かくして男と女は徐々に棲み分けをはじめていく・・・、と書くとみなさんきっと反発なさるでしょうが・・・。

わかってるんなら気をつけてください。

今回のエントリの男性や女性の性についての考察は、何か根拠があって語っていらっしゃるのでしょうか。そうでないのなら、単にご自身のジェンダー観を露呈しただけの話では。

*1:ここで「何を言う!俺は女には興味ない!」て研究者がもし言ってきたら傑作だよね。

*2:そう言えば。「ちょびっつ」を例に出していらっしゃるけれど、「甲殻機動隊SAC」でも「女性型ロボット」に傾倒する男性が描かれていました。でも九課の連中には、その男性のことを理解しがたそうな雰囲気でした。「マッチョな男だ」と素子さんが不愉快そうに仰っていたのが印象的。男性隊員たちも、「自分はあんな男じゃないぞ」と言いたげだったような・・・。そして、その男性は(あくまで侮蔑的な意味で)「倒錯的な男性」として物語に存在していました。この物語では「生身の女を獲得できるか、お手軽なロボットにしか相手にされないか」みたいなヒエラルキー的なものも生まれてるのかもしれませんね。

*3:あるいは、『変態(クィア)』性。

*4:ポジティブな意味でも、「腐女子は女性の抑圧された性的欲望を開花させた存在」みたいなことを言われたりします。それはもちろん腐女子を肯定してるつもりなんだろうけれど、そんな言い方をしてしまうことで、女性の性を「抑圧された」「客体的な」ものとして特化させてしまうことになると思う。しかしそれはもっと批判的に考察をされてしかるべき事柄だと思う。そんな感じに、『言説』が私達に働きかけ、実際の性を一面的に捉えさせてしまったり、より正確に歴史化することを妨げる、ということもあると思うわけです。