よしながふみの「腐女子論」。

この対談集において、彼女はマンガを「女性」という存在者を主眼におきながら論じるのだけど、それが腐女子論においても興味深い骨子を生み出しているのね。
よくあるカリカチュアライズ(単純化)された「腐女子論」「やおい論」というものには、腐の欲望について非常に皮相的な解釈しかしていないくせに腐を理解した気になっているものも多いじゃない?最近は世間でも流言飛語が飛び交う状況になってると思うのね。けれど、少女マンガ語りに始まりBL語りにいたるまでの、彼女の腐女子論とはそういうものじゃないような気がする・・・。
でもそれがなんなのかわからない。では、実際に彼女の「腐女子論」を一つ挙げてみよう。たとえば(隣の801ちゃんの影響なのか)「なぜ腐女子にはリーマンものが人気なのか?」と聞きたがる方も多いと思う。そこである腐女子論者はこう答えるかも知れない。「女性は男性のスーツ姿に惹かれるのであり、よって『スーツ萌え』によりリーマンが好まれるのだ*1」と。
で、彼女はこんなことを語ってたりする。

よしなが 私は最初にも言ったようにBLというものを女の子でも普通に読めるポルノとして認識していたんだけど、学生の時から普通にBLを読んでいた下の世代の子に聞くと、それもまた違うみたい。[・・・]じゃあ、彼女達にとってBLにしかない面白さはなんなのだろうと思って聞いてみたことがあるんですよ。
こだか それは興味あるな。なんですか?
よしなが お仕事なんですって。少女マンガはきちんとお仕事が描かれていないっていうんですよ。
[・・・]
よしなが そうなの。学生はやっぱり大人がどんな仕事をしているのか、その内容が知りたいわけ。
こだか だからリーマンものがウケるのか。
よしなが そうそう、スーツ萌えだけじゃないのよ(笑)。若い子たちも本当はそういう仕事の世界の話をいろいろ見たいのに、女の子向けの作品にはそういうものが少ないんですよ。だからって、「FEEL YOUNG」や「Kiss」が読みたいわけではないの。BLならお仕事ものがあるからって、それを聞いたときはBLは新しい地平を開いたと思いました(笑)。

この議論自体「本当に少女マンガってお仕事描けてないの?」「BLってちゃんとお仕事の“内容”を描けてるか?むしろ仕事してないものすらあるぞ?」とか思ってちょっと疑問なんだけど、それはそれとして。彼女は自分の体験を活かした上で、独自の発想でそこにある欲望の“背景”を見出そうとしているのよ。なんで?っていう疑問に(不十分ながらも)答えてると思うのね。そこらへんがよくある「腐女子論」とは微妙に異なるなぁと思ったり・・・。
しかし、どこがどう違うのか。
一つの需要に着目した上で原因を探る、という点はよくある腐女子論と同じように思える。だけれど、「スーツが好きだから」という原因だけでなく、彼女は「仕事を読みたいから」に加えて「高校生は大人の仕事の内容を知りたがるもの」という、女性高校生の“背景”を論理に肉付けしているのね。更に、「少女マンガにはそれがなく、BLにはそれがあるから」という、他ジャンルと比較した上での理由をも付け加えている。こういう説得力の増す、細かな推察が単純な腐女子論とは異なるのかも・・・。ちゃんと理由というものを、納得できるほどに掘り下げようとする、その姿勢が違うのかも。
欲望に対する真摯な姿勢というのは、それがあるだけで説得力が上がるものだ。最近のよくある腐女子論には、こういう“掘り下げる”という真摯な姿勢が伺えないような気がするんだけど、どうでしょうか・・・?


しかし、彼女の論調は上を見られるように、どこか大雑把な気がする。多様な女性男性がいるのに、その女性男性を全て一まとめにして論じてしまうという愚昧が、一部的にあるのではないか。
・・・ここらへん詳しくは、またのちほど。

*1:この「女性」がどの「女性」なのか分からないのだけど。。。